Dolly

 冴えた瞳で男は問う。
 
 「戻れなくなるぞ」
 
 その無為に冷徹な言葉に乾いた笑いを漏らして、俺は言った。
 
 「俺が歩んできた道は、お前が壊してくれるだろう?」
 
 憐みにも似た影がその白い頬を掠めたが、気付かないふりをして目を閉じる。
 雨に相容れくすんだ影が、今にも消えてしまいそうで。
 
 光も届かない何処か遠くで、鴉が叫ぶ声を聞いた。



 image by Prastic Tree
 11.07.05.