キズアト

 薄い肌に指を沿わせると、震えた瞼の下から薄青の瞳が覗いた。
 
 「…………これ」
 「ん?」
 「この傷は、」
 「ああ…………これは、確かグランドラインに入った直後の島で遭遇した海賊にやられた奴」
 「こっちは?」
 「海軍から逃げる時に」
 「それは」
 「随分昔、未だ海賊になる前のだな。喧嘩して付けられた」
 
 随分と多くの傷が刻まれた皮膚を滑るように撫ぜる。
 
 「これは?」
 「ああ、これは…………キッドにやられたんだ。それはもう、ざっくりと」
 
 ひときわ大きな、秀麗な顔面を横断するかのように付けられた傷に指先を向けると、懐かしそうな声が言った。
 その目には、過去を慈しむかのような光が宿って、
 
 「…………」
 「どうした?」
 
 一舐め、べろりと傷跡に舌を這わせると、くすぐったそうに身を捩る。
 そのまま喉元に宛がわれたナイフには一部の疑問も投げず、ただその柔らかい視線を此方へと寄こした。
 
 「…………」
 「…………」
 「俺が今、その喉を切り裂いたら」
 「きっと大きな傷が出来るだろうな。多分、俺が持っている中で一番に」
 「…………」
 「…………やらないのか?」
 「…………やめておく」
 
 そのままからんと音を立ててナイフを落とすと、残念だとでも言いたげに、中途に開かれた口から甘い吐息が漏れた。



 2011.09.16.