それでも世界は悠然と廻り、

 「もう少しで着くから」
 
 見目以上に軽い男の肢体を担ぎ上げ、歩き始めから幾時が過ぎたのかはもう分からない。
 それでも一所を目指し進む歩は緩まることを知らず、只々延と瓦礫の山を登り続けている。
 
 「ほら、着いた」
 
 我楽多の積み上がる廃墟の片隅から世界を見下ろすと、朝焼けに染まる海が悠然とうねりを上げていた。
 穏やかな波はまるで嘲笑うかのように寄せては引き、引いては寄せて行く。
 満ち足りたようで何処か物哀しいその景色が、酷く疎ましい。
 
 「朝だ、ペンギン」
 
 愛しい身体をそっと下ろし、キラーは空へ目を向けた。
 眩し過ぎる橙の光に薄い瞳が焼かれる気さえして、思わず目を閉じ視界を黒に染める。
 
 「お前に見せたかったんだ」
 
 俺は只不甲斐無いばかりで、お前にやれるものはこのくらいしかない。
 
 「こんな俺に、お前は失望するだろうか」
 
 お前のことを、俺は何も知らない。
 けれどそれでも、怒って、呆れて、愛想を尽かしたとしても、お前は此方へ背を向けるだけで。
 
 「俺を置いてなんて、行かないだろう?」
 
 決して俺を置いて反射角を進み行くような奴ではないのだと、何故か俺は知っている。
 だから自信を持ってこの科白を吐きだす事が出来る。
 俺は、信じている。だから。
 
 「              」
 
  冷えきった頬に触れた指先が無様に震えていて、また少し己を好きになった。



  2011.09.18.