セカンド・シンドローム

 「ふっ…………ふっ…………」
 
 部屋の片隅から少し荒い息遣いが聞こえて、ペンギンはふいと声のする方を見遣った。
 
 「何だ、筋トレか?」
 「ああ、毎朝の、日課だ」
 「そりゃあ、ご苦労なことだ」
 「お前、は」
 「俺だって鍛えるくらいのことはするが、流石に朝イチ寝惚け眼でしようとは思わないな」
 「そう、か」
 
 会話もそこそこに汗を滴らせながらトレーニングに励む横顔を見ながら、長い髪が鬱陶しそうだなあなんてペンギンは呑気にも考える。
 
 ユースタス・キッドを初め、彼の船にはどうにも体格が矢鱈と良い奴が多い。
 背が高かったり、腕が太かったり。
 キラーとて決して華奢という訳ではないのだが、彼らと並んで立つと必然高すぎぬ故に身長の低さが相まって、か弱そうに見えてしまうのが現実だ。
 最も、実力を問えば船上の2番手。更にこの広い海で億超えルーキー11人の片端を担うのだから、こんな言い方をすれば失礼かもしれないが、大した奴だと思う。
 
 しかしそれでもやはり彼なりにコンプレックスを抱える所があるのだろうか。
 すっきりとした輪郭から透明な雫を流しつつも身体を虐げる動きを幾度となく繰り返す様に迷いは見られず、寧ろ少しの焦りさえ感じられた。
 
 するりとベッドから降りて、すぐ傍らでその凶相を拝見する。
 眉間に皺が寄っていようが歯が食い縛られていようが、綺麗な物はやはり綺麗だと今更ながら実感した。
 
 「うわ」
 
 何の勢いも着けずその腹に跨ってやると、流石に身体を起こす事は出来ないらしく、驚いた声と共にぱたりと半身が床に伏せられた。
 跳ねていた金糸も勢いを失くしてさらりと流れ、動きを止める。
 
 「急に何だ」
 「そんなに焦らなくても良いんじゃないか」
 「?」
 「俺は、今のお前が好きだよ」
 「そ、そうか」
 「筋骨隆々のキラーなんて嫌だ」
 「そんなことを言われてもだな…………」
 「嘘。どんなお前でも俺は好きだけど」
 「何が言いたい」
 「俺を放っておくなってこと」
 「…………それは悪かった」
 「ふふ、分かれば良いんだ」



  2011.09.21.