the world exist PERFECTLY

 幾度目とも知れぬ朝焼けが昇る。
 色素の薄い瞳が強い光に焼かれるような気がして、堪え切れずに目を細めた。
 
 「世界ってのは、光を浴びれば浴びるだけ色褪せるんだと」
 
 隣に座り込んだペンギンがぽつりと言う。
 
 「俺達の目はさ、太陽を見つめれば見つめる程に焼かれて、溶けて、鮮やかな世界を映さなくなっていくらしい」
 「…………」
 「ほら、よく言うだろう。生まれた瞬間に見た景色が一番綺麗だって」
 「網膜が焼かれ、動かせる錐体細胞の減少から享受できる色彩の数が自ずと減るということか?」
 「そういうことになるのかな」
 「…………実感は無いな」
 「そりゃあそうだ。日々少しずつ失われていく色彩を実感できる奴なんてそういないさ。微々たる、僅かな変貌。これは、進化と言えるのかな?」
 「退化も進化も似たようなものだろう」
 「違いない」
 
 ま、細かい事はうちの船長の得意分野だから俺は良く知らないけれど。
 そう言ってペンギンは、黒耀の瞳に強い反射光を受けたまま、片眼も眇めずそう言った。
 水面に乱反射する光は、直に降りそそぐ太陽光の数十倍は眩しくて、紅の日の出が金色の光線に代わるその瞬間を開いた眼に焼き付けることは出来なかった。
 
 「赤く見えていた物が黒く見えるようになった所で、世界は何も変わらないのさ」
 「…………歪んでいるのは俺達の方か」
 「そう言う事。世界は何時でも完璧に存在していて、そこに疑問を抱く俺達にこそ欠陥は有るんだって、昔誰かが言ってたのを覚えているよ」
 「神を犯すべからず、理に疑いを持つべからず、か?」
 「そうとも言えるかもしれないな」
 
 よっ、と自身に掛け声を浴びせながら、ペンギンは腰を上げた。
 
 「そろそろ戻る。船長も帰って来る頃だろう」
 「そうか」
 「…………なあ」
 「ペンギン」
 
 躊躇いがちに振り向く背を留め、前を向かせたままでキラーは言った。
 
 「俺の目には、何時でもお前が一番鮮やかに映るよ」
 
 そろそろ終わりにしようか、とか。
 グレースケールのお前の瞳に色を抱くことは刹那たりともありえない、とか。
 ぶつけるべき嘲り言葉は幾らでも浮かぶのに、何故か落ちるのは心にも無い睦言ばかりで。
 
 「…………お前の金糸に勝る物は無いさ」
 
 いつまでこんなことを続けるつもりだ、とか。
 お前の目に映るのは品のない赤色ばかりだろう、とか。
 叩くべき憎まれ口は零れる程有るのに、何故か紡ぎだされるのは他愛もない蜜言ばかりで。
 
 
 唇を重ね合うだけの、この無粋な行為に脳髄の融解を感じなくなったのは、一体いつからだろうか。



  2011.10.29.