YOUR HIGHNESS

 ぐちゅり、と卑猥な水音が室内に響いて、小さな喘ぎが漏れる。
 奥を掻き乱すと耐えきれないように断続的な嬌声が上がり、堪えようとする努力も虚しくそれは静かな闇に何処までも深く泥んだ。
 
 「っ…………く、あ、ああっ」
 
 最後とばかりに突けば、勢い良く白濁した液が舞って、いやらしくシーツの上に零れる。 ずぶりと刺したものを刺したものを抜けば細い体躯からは荒い息遣いが伝わり来て、張りつめた空気を緩やかに乱す。
 
 「はっ…………は、あ」
 
 涙の滲んだ双眸を拭うと、気だるげな瞳がそれでも睨みつけるように此方を見るので、余裕の無いままに少し肩をすぼめる。
 しとやかに濡れた色付く肌も、はらりと零れる黒髪も、闇の中でさえ強く光を失わないその黒耀の瞳も、全てがキラーを魅了してやまない。
 だが、その誘う様に開かれた唇だけは、どう足掻いても己のものになりはしないのだ。
 
 そっ、と下唇の輪郭を指の腹でなぞると、不快を隠そうともせずにペンギンはふいと横を向いてしまった。
 拍子に流れた髪の下に広がるきめの細かい白いキャンパスには薄紅が目一杯に主張していて、この身体の何処にも最早自分の色が乗せられていない場所は無いようにさえ見えるのに。
 その紅を上塗りすることが、己に許されることはない。
 苛立たしさと辛さと、訳の分からない感情が胸中に満ちて、思わずぎりと唇を噛むと鉄錆の香りが口内に広がった。
 
 「…………」
 
 その一連の仕草を眇めた目で追っていたペンギンは、ふと手を伸ばし、唇に馴染んだ赤い液体を指に掬い上げた。
 そのままぺろりと、見せつける様に深紅を舌に乗せる。
 瞠目した浅葱の瞳が酷く綺麗だった。
 
 「ペンギ」
 「駄目だ」
 
 思わずその頬に掌を宛がうと、肌は思いのほかに冷えていた。
 余裕の無い声を遮る、肌よりもなお冷たい声音にびくりと肩を震わせるとペンギンは渇いた笑みを漏らす。
 
 「俺はお前の恋人じゃない」
 「…………」
 
 垣間見える赤い舌が脳髄に警鐘を響かせる。
 思わず闇に視線を投じると、支配者の笑い声が静かに轟いた。
 
 「他の総ては許されているのに、許されない唯の一点に固執するお前は、」
 
 視界を闇に投じても、鼓膜を震わす密かな音を葬ることは出来ない。
 
 「        」
 「…………っ」
 
 絶対君主の囁きに、耐え難い渇きが鎌首を擡げた。


 主従の日。
 2012.04.10.