鈍痛

 ぱちりと軽い音がして、同時に鋭い痛みが奔った。
 けれど痛みは一瞬で、やがて鏡越しに、金色のボールの下から薄い紅が滲み出るのが見えた。
 
 「お」
 「開いたか?」
 「ああ…………でも、ちょっと血が出てる」
 「大したことでもない」
 
 するりと白いプラスティックを下に引くと、そこには小さな金属だけが残される。
 もういいぞ、というと、髪を持ち上げていた腕を大儀そうに下ろし、そのまま豊かな金糸を耳に掛けしげしげと観察を始めた。
 
 「付いてる」
 「そりゃ、穴開けたからな」
 「どのくらいで取れるんだ?」
 「別に決まってないが…………確実に開けたいなら、まあ、1ヶ月強はそのままにしておいた方が良いんじゃないか?」
 「そうか」
 
 左耳に鈍く光る金をちょいちょいと弄りながら、キラーはなにやら満足げに頷いた。
 それを見てペンギンは少し不思議そうな顔をする。
 
 ピアスホールを開けてくれと言われたのはつい先程のことだ。ものの5分も経たないかもしれない。
 何でも以前からペンギンの耳に所狭しと開けられたホールがいたく気になっていたようで、まっさらな耳朶を晒しピアッサーを突き付けてきた。
 
 「放っておけば塞がるものなんだろう」
 「まあ、そうだが」
 「取り返しのつかなくなる物でも無し、お前さえよければ一度開けてみてくれないか」
 
 可笑しな奴だと思った。
 けれど拒む理由も無く、差し出された四角い樹脂をその耳に宛がったのが、数分前。
 
 何が面白いのか未だに鏡を覗き続けている背を軽く足蹴にすると、何をするんだと言わんばかりの胡乱気な目が此方を向く。
 男の身体に傷を付けたのが自分であることが、酷く快かった。
 
 「ピジョンブラッドの似合いそうな奴だ」



 2011.09.08.