singin' in the rain

 降りしきる雨に暫し茫然と立ち尽くしていると、不意に肩を叩かれた。
 振り返ると少し困り顔のキラーが外を眺めている。
 
 「天気予報、見なかったのか」
 「朝は晴れてた」
 「午後の降水確率、90%」
 
 ちらと此方を見て、少し溜息をつく。
 ずいと差し出されたターコイズブルーの傘を取り合えず受け取って、再び自分より少し高い位置に在る顔面を肩越しに見遣った。
 
 「貸してやる」
 「お前は」
 「折り畳みがあるから」
 「嘘だな」
 「…………何でそう言える?」
 「嘘ついてる時、右目を眇める癖がある」
 「嘘」
 「嘘」
 
 ぱっと右目を覆った綺麗な指を見て、くすりと笑いを洩らした。
 鎌を掛けられた本人は渋い顔を僅かにずらして、不満気な色を見せる。
 
 「一緒に帰ろう」
 「反対方向じゃないか」
 「お前が俺を送ってくれればすむ話だ」
 「自分勝手な奴」
 「お前にだけだ」
 「頼むからそうしてくれ」
 
 ばさりと開いた傘は標準サイズそのもので、大の男が二人で入るには些か小さい。
 ひょいと差し出すと自分のものより少し大きな手はペンギンのそれを覆うように柄を握って、反対側の手で荷物を抱え直した。
 
 「行くか」
 「あ、帰りにスーパーで特売やってるから寄って行って」
 「…………」
 「ティッシュペーパー、一人一つなんだ」
 「…………俺はお前の何なんだ」
 「小間使い?」
 「…………」
 「嘘だよ。素敵な素敵な恋人様だろう?」
 「…………分かっているなら良い」
 「家、寄って行けよ。今日は用事も無いから」
 「俺が暇なのは確定事項なんだな」
 「俺よりも優先すべき用事をお前が持つなんてありえない」
 「…………全くお前という奴は」
 「ふふ、怒るなよ」
 「弁明はベッドの上で聞かせて貰おう」
 
 此方に寄せられた傘の向こうに濡れた肩が見えて、少し切ない心地がした。



 title by L'Arc〜en〜Ciel
 2011.09.19.