メカニカル・ランドスケープ
がたんと突然に揺れた車内で、ローは思わず体勢を崩し目の前の男にしがみついた。
「っと、悪ィ」
「ああ?」
酷く凶悪そうなその目に今浮かんでいるのはただただ侮蔑の色だけで、取り合えず怒りは見受けられないのでほっと息をつく。
苛立たせたり怒らせたり、ユースタス屋をからかうのは酷く面白いけれど、意図の及ばない所の行動で気分を害させるのは趣味じゃない。
しばしそのままの体勢でじっと見つめていると、一端は窓の外に移された視線が再びローの頭上まで運ばれるのを感じる。
「何だ」
「…………いつまでそうやってる気だ」
ローの両腕は確りとキッドのカッターを掴んだままだ。
無自覚な行動ににへらと笑うと、キッドは面白くもなさそうにフンと鼻を鳴らして三度他愛も無い風景に視野を投じた。
…………面白くない。
「おい」
「だから何だよ」
「うぜえっつってんだよ」
「あ?」
電車の揺れに合わせて、吊皮代わりにに未だ不安定な布切れを握りしめているせいでローはふらふらと揺れる。
服を掴まれているキッドも、同じようにゆらゆらと足元を覚束せ無い。
「いいだろ、減るもんじゃねえし」
「そうじゃねえ」
言うなり肩に逞しい両腕が回る。
宛ら抱き込まれるかのような体勢に、一瞬ぽかんとした間抜け面を晒してしまった。
「そっちかよ」
「いいからじっとしとけ。周りにも迷惑だろ」
満員電車に張りつめた空気は酷く重い。
けれどこの腕に囲われているだけで不思議と涼やかな心持になれる。可笑しなものだ。
「フフ」
「何だ」
「俺、お前のカノジョみたい」
「はあ?」
「ユースタス屋の匂いだ」
「…………馬鹿じゃねえの」
きゅっと目を瞑って胸板に持たせかかると、満更でもなさそうな、しかし確かに呆れを含んだ嘆息が落ちて来て、ローは隠さずに頬を緩めた。
2011.07.04.