無味無情
この身が殺戮武人と称される所以は、ひとえにこの両腕が殺めた数に在る。
生と死の術を兼ね備えるその男が、死の外科医等と言うふざけた二つ名を持つのとさして変わらぬ、他愛も無い世界の戯れにすぎない。
その生を穿つ意図は様々だ。
狩れと命じられたなら躊躇いも無く、危機を感じれば即座に、何の感慨も映さず双鎌を振り裁く。
そこに私利が絡んだ事は一度として存在しない。
全てはそう、必然が招いた結果だ。
立つ気に任せて血糊を飛ばした事は、一度も無い。
「良い事を教えてやろう」
目の前の男の首に鋭利な刃を突き付けながら、俺は静かに告げた。
「自分の意思で、人を殺すのはこれが初めてだ」
「そりゃあ良い」
頬に紅を滲ませた男は、その鼓動が数秒後に絶たれるであろうこの状況においても尚、癪に障る笑みを崩さない。
「お前の"特別"だ。なあ?」
「…………っ」
斯くも気に喰わないその口を塞いで、常闇に視野を委ねた。
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「良い事を教えてやろう」
厳かに言う男の青い双眸にはやはり何の色も浮かばない。
静闇に於いて尚無い光を受けて煌く金糸同様、晴れた空を思わせる場違いな空色は何処に在っても美しいものだと思う。
髪から目まで全てを黒曜で覆い尽くした自分には無いものだ。
「自分の意思で、人を殺すのはこれが初めてだ」
震えもしない声色で淡々と紡がれる言葉はまるで、そこに一輪の花が咲いていますとでも言わんばかりにありふれた調子で、すこし可笑しくなった。
「そりゃあ良い」
おそらく男が一番厭うであろう、為し得る限りに嘲りの笑みを浮かべて言ってやる。
この男が好きだった。
否、喉元に刃を宛がわれたこの惨状において尚、好きなのだ。
だからその心に、永劫抜けぬ楔を打ち込む。
「お前の"特別"だ。なあ?」
「…………っ」
案の定、それまで一筋の翳りも差さなかった虹彩にちりと焦燥が奔る。
誘うように開いた唇に喰らい付かれるのを感じて、今やもう役にも立たない両腕でしかとその首を捉えた。
11.07.04.