kill a face
何が如何なったのか分からない。
兎角頭上に気配を感じたと思ったら、がんと嫌な衝撃が走って、気付くと仰向けに倒れていた。
どうにも頭を打ったらしく、後頭部の髪が湿っているのを感じる。
帽子が汚れていないと良いが、この分だとそれは無理な相談だろう。
揺れる視界を定めることは出来ず、額から滴る血を眼球の外へ追いやって漸く馬乗りに身体を押さえつける正体を掴んだ。
「殺戮、武人」
「…………」
「何のつもりだ?ユースタスの命令で俺を殺しに来た、訳はないよな?」
小物をちまちまと狙うなんて、奴らしくない。
本当に敵意があるなら、姑息な真似はせず正々堂々と頭を叩くのが奴のスタイルだと、僅かな時間の観察で容易に知ることが出来る。
ハートの海賊団が狙いなら、中途に自分を狙うのでなく、端からローを攻める筈だ。
「答えねえ、ってか」
「…………」
まるで聴覚を持ち合わせていないように。
喉元に突きつけられた仕込み鎌の切っ先がぶれることも、勢い良く引かれ血が迸ることも無い。
朔の闇にぼんやりと浮かぶ仮面は只無機質で、幾つもの穴の向こうに見える筈の表情は只管色を押し隠していた。
不意にがしゃりと音がして、構えられていた得物が横へ放られる。
薄暗い路地で、ろくな照明も無い覚束ぬ星明かりの下、不意にその手が己の頬へ伸ばされた。
「何のつもりだ」
「…………」
相変わらずの無言。会話の拒否。
暫くの硬直状態が続き、やがてその思いの外細い指に輪郭線をゆるりと撫でられるのを感じたペンギンは、観念といった体で大きく息を吐きながら言った。
「…………仮面の下も分からない奴に抱かれてやる気はないぞ」
「…………」
あ、笑った。
相変わらず表情は見えないが、それでも瞬間笑いの吐息が漏れたのをペンギンは聞き逃さない。
やがて頬に宛がわれた掌が離れ、そのまま豊かな金糸に伸ばされる。
ばちんばちんと金具の外れる音がして、ごろりと転がったその仮面の中を目の当たりにして、一言。
「…………何処までも嫌味な奴だ」
落ちる口付けを拒むことは出来なかった。
2011.09.26 .