twinkle, twinkle
きらりきらりと流れる星を頭上に仰ぎながら、ペンギンはひとつ溜息をつく。
ふうと胸に浅く吸い込んだ息を吐き出せば、胸にわだかまるもやもやとした掴みどころのない感情までもが一緒に抜けていくような気がして、幾分楽になった。
頭を預けた草木に宿る露が冷たい。
濡れてしまうといけないので、帽子は既に胸の上だ。
空気に触れた髪は夜に乗ってさらさらとなびいて、涼風に目を閉じた。
「ペンギン」
彼の声が自分の名を紡ぐ度、流れた星がまたひとつ、何処からともなく入り込んで身体の中へ埋もれる。
折角吐き出した感情の集積は瞬く間に元の質量を取り戻して、ぬるい倦怠感で頭蓋を満たした。
「何だ」
「流れ星が流れ切る間に三度願いを唱えられれば、その願いは叶うんだって」
「…………知ってる」
古今東西共通に流布した有名すぎる都市伝説の一端だ。
流れて行く星の涙を数えながら、少し嫌な顔をしてペンギンは言ってやった。
「そんな幼稚な迷信を信じてるのか?殺戮武人ともあろう奴が」
「夢があって良いじゃないか。信じる者は救われるんだ」
「ほざけ」
「叶わない願いくらい、星に縋ったって良いだろう?」
らしくない科白に少し顔を傾けると、視界に入ったキラーは腕を夜空へ伸ばし、まさに星の雫を掬おうとしている所だった。
「どうして」
「欲しい物は力ずくで奪うのが海賊だ。けれど、幾ら海賊だって奪えないものくらい山程あるし、また奪う事と手に入れることは同義ではないから」
「…………例えば?」
「命とか、誇りとか、」
愛とか。
そう言って困った様に笑う横顔が少し眩しい。
「だから、流れ星にお願いしてみようかなあと」
「…………」
「幾ら翳した所でこの手は空に届かないし、星も掴めないけど。儚い夢くらい、見たって良いじゃないか」
遠くを見つめる瞳のブルーが空のネイビーに吸い込まれ行くように見えて、慌ててペンギンは言の葉を紡いだ。
「三回も唱えられないだろ。物理的に」
「…………ペンギンって、ゲンジツシュギだよな。夢が無い」
「ほっとけ」
「海賊は夢を見るのが仕事だろう」
「生憎、石橋を前に安易に跳ね渡る様な精神は持ち合わせていなくてね」
「叩き過ぎたら石橋だって壊れるぞ」
「煩い」
眉根を寄せて毒を吐くと、その目が漸く此方に向けられて、ペンギンは訳も無くほっと胸を撫で下ろした。
「因みに聞くけど」
「何?」
「お前の願いって、何だ?」
「…………内緒」
くすりと笑ってキラーは言った。
「言うと叶わなくなるって言うだろ?」
「?」
「願い」
「…………星に願うより、俺に話した方が叶う確率は上がると思うぞ?少なくとも、リアルに存在している相手に託すと言う意味では」
「…………本当に、呆れるほどのリアリストだ。お前は」
「わ、悪いかよ」
「別に?まあ、ペンギンらしくて良いんじゃないか?」
がさり、と露草を揺らして上体を起こしたキラーに倣って、ペンギンも身体を持ち上げる。
見上げる空が少し近づいた様な気がして愉快になった。
星の涙が流れる。
「ずっと一緒に居られますように」
ぽつりと零された言葉が一体誰に手向けられたものなのかは知らない。知る由も無いし、知る必要も無い。
微かな星の光が視界の端に揺れる金糸に乱反射を繰り返して、まるで光の川が流れているようだと少し目を眇めた。
「あの星を取って、ペンギンの髪に飾れると良いのに」
「…………俺が呆れる程のリアリストなら、お前は目出度い迄のロマンチストだな」
「それって誉めてる?」
「訳無いだろ」
「だよな」
image by L'Arc〜en〜Ciel
2012.07.07.