RED LETTERS
目が覚めると、未だ外は暗かった。
携帯電話を開くと、未明にも程遠い。
さしたる睡眠時間を確保することもできず、中途に刻まれた体内リズムが浅い眠りから意識を引き挙げてしまったらしい。
少し重い身体をそろりと起こすと、ずれてしまった布団を引き上げるように隣の手が動いた。
天井を見上げたその寝顔を目にするのは、そういえば随分と久々かもしれない。
ペンギンが目覚めるのはいつも日もやや昇り過ぎてからで、動き始めた五感が最初に捉えるのは優しい光を湛えた薄青の瞳だった。
長い睫毛が青へ帳を降ろしたままに縁取る穏やかな顔を拝むのはいつ以来だろうと、少し考える。
ぎし、とベッドを軋ませながら、正面より覗き込んだ。
腕枕をするように此方に回されていた手は布団を引き上げる動作のまま形を留めて、反対の腕は汗を拭うような形で額に添えられている。
最も、今は発汗するような季節でもないので、何らかの仕草が偶々そのポーズを作ったのだろうと想像できた。
そっと顔を近づける。
吐息も触れそうな距離、深い呼吸が繰り返される度にけぶる様な金の細い睫毛が揺らめいて、光の無い部屋で煌いた。
嫌味な程に整った顔の造作は男の自分から見てもやはり綺麗で、その造形に惹かれた訳ではないにしろこの男を好いてしまう要因の一つには少なからず入ってはいるのだろうと自覚せざるを得ない。
「…………」
少し、悪戯心が芽生えた。
相手が目覚めていないことを確認して、啄むようなつもりで唇に近づく。
鼓動が、やけに速い。
「!」
放り出されていた筈の手がいつの間にか後頭部に回されていて、何の脈絡も無しに引き寄せられたかと思うと気付けば唇が重なっていた。
触れるだけのキスにも、訪れた刺激の突然さゆえ思わず目を瞑る。
柔らかな感触が離れ、こそりと目を開けると確りと開かれたアイスブルーの瞳が見えた。
「…………ひっかかったな」
「…………起きてたなら、そう言えよ」
「何をされるのか、少し期待していたんだが」
「…………」
「お前こそ、眠れないなら素直にそう言えば良いじゃないか」
「…………るさい」
至近距離で交わされる会話に動悸はますます速くなって、ついた腕に力を込め少しでも遠ざかろうとする。
しかし未だ回されたままの腕が首筋を捉え、再び引き寄せられるのを阻む術は無かった。
「…………んっ…………ふ…………」
深いキス、僅かなブレスの後に続いて滑らかな舌が歯列を割り、差しいれられたまま口内を犯される。
良い様に嬲られて、眦から透明な雫が零れ落ちた所で漸く新鮮な酸素を脳に供給することに成功した。
「っは…………は…………あ…………」
「…………」
暗闇にも分かるほど目元を朱に染めたペンギンが喘ぐのを暫く見て、キラーは焦れたようにその腕を引く。
組み敷かれるような体勢に不可思議を浮かべた愛しい人に、鼻の先も触れそうな距離で静かに囁いた。
「…………本気になって来た、と言ったら、怒るか」
「…………怒った所で止まる訳じゃないんだろう」
開き放しの携帯電話、ディスプレイの曜日が赤色で描かれているのを見て、少しの安堵を乗せて細い首筋へと舌を這わせる。
外は未だ、夜色の闇を手放してはいない。
2012.01.05.