ゆきのうまれるところ
「…………ん」
ぼんやりと覚めた意識に目を開ける。
布団は確りと肩まで掛けられているのだが、どうにも寒い。
横には静かに眠る秀麗な面があって、少しの羞恥はあったものの冷え冷えとした空気には打ち勝てず、そろりとその胸元に顔を寄せる。
上下する肌は確かにそこへ生が息づいているのを悟らせて、温もりと共に、震える体へ大きな安堵を与えた。
「…………眠れないのか?」
見上げると、先程まで閉じていた筈の瞳が開いている。
薄氷の瞳に僅かな危惧を乗せたその様子を見て、起こしてしまったようだと謝罪を投げかけると、言葉の代わりに柔らかな抱擁が返された。
「…………温かい」
目を閉じて与えられる熱を享受するペンギンにどうしようもなく愛おしさが込み上げて、壊れないよう十分に配慮しながら腕に込める力を強める。
きゅ、と寝間着の裾が握り返されるのを見て理性が悲鳴を上げるが、此処は何とか押し留めることにした。
「あ」
暗い空に何か白いものが舞い落ちるのを、視界の端に捉える。
黒耀の髪越しに窓の外を見遣ると、今しがた降り始めたばかりとでも言わん体で雪の欠片が閃いていた。
「ペンギン」
「何だ」
「ほら、外」
「…………あ」
思わずと言った風に身体を持ちあげるペンギン。
薄着のその格好では肌寒いだろうと、見かねて傍の椅子から持ち上げた自分のカーディガンを被せてやると、嬉しそうな顔で此方を振り返った。
「雪だ、キラー」
「ああ」
北国出身の彼にとって、雪なんて見慣れた以前のものであるとは思うのだが、あまり雪の降らないこの都心で見るその白はまた彼の胸に別の感慨を与えるのかもしれない。
冷えた硝子に手を突いて一心に夜空を眺めるその背を腕の中に閉じ込めて、暫し牡丹雪の軌跡を辿る。
「積もるかな」
「さあ…………しかし積もって貰っては困るな。交通機関に支障が出る」
「夢がないな、お前は」
「…………それは申し訳ない」
「ふふ」
満足そうに微笑む輪郭をするりと撫ぜると、くすぐったそうに身をよじった。
「雪の降る音って、聞いたことあるか?」
「…………無音じゃないのか」
「ずーっと、何も無い所で耳を澄ましてると、ふっと聞こえるんだ」
辺りの音をひとしきり吸い込んで、がらんとした静寂の中只管に降る雪の奏でる色。
暫し透き通る様な沈黙が辺りを支配したが、生憎キラーの耳にそれが届くことはなかった。
「…………分からんな」
「薄汚れた心じゃ感じられないのかもな」
「…………」
「冗談だって」
「…………お返しだ」
囲った身体をくるりと反転させて、唇に熱いキスを落とす。
雪灯に作られた何処までも静かな夜の影に濡れた音と荒い息遣いが響いて、自分と彼の二人を除いた世界の全てが眠りに着いてしまったかのような、都合の良い幻想を覚えた。
2012.01.11.