LOOSE SEX
「何だ、これ」
部屋の片隅に見慣れない箱が置いてあったので、何気なしにペンギンはその中身を問うた。
黒い、直方体。
センスの感じられるシルバーの字体はシンプルな箱の表面に箔押しされていて、在り来たりなデザインは実際の所問わずともその中身を想像させるに足るものだった。
「ああ」
汗をかいたペットボトルを右手に寝室へ足を踏み入れたキラーはそのまますたすたと歩を進め、指された箱の蓋を取って見せる。
露わな胸が少し眩しくて、ペンギンは目を眇めた。
濡れた髪が揺れる度雫を落とす。
「サンダル?」
「ああ。前に一緒に住んでいた奴が忘れていったんだ、おそらく」
クローゼットを整理していたら出てきた、と事もなげに語るその横顔は月の光に沈んで、色を図ることは出来ない。
「ふうん」
別段キラーの恋愛遍歴に興味もないペンギンは、曖昧な返事をしてそのままベッドから身を起こした。
彼の最後の恋人が自分であれば、それで良い。
「…………履いてみるか?」
「…………はあ?」
すいと立ち上がった左手には黒い靴が携えられていて、尖った踵が長い影を作る。
「足出して」
返事も待たず、放り出した足が掬われる。
滑らかな手が肌を掠めながら繊細な留め具を嵌めていく横で、ペットボトルがフローリングを密やかに濡らすのをペンギンは見ていた。
「…………似合うな」
「そんな訳無いだろう」
流石に女物の履物が彼の足にぴたりと嵌ることは無かったが、それでも。
白い足首に巻き付く革紐が余計にその細さを際立たせて、すらりと伸びる脚線の艶めかしさにキラーは吐息を零した。
そのまま足を持ち上げ、音も立てずに指先へ口づけを落とす。
上目遣いにその表情を伺うと、月明かりに横顔は白い頬を照らしただ妖しい笑みを浮かび上がらせていた。
「お望みとあらば、踏んでやるが?」
鋭利なピンヒールをぐいと肩口に押し付ける。
痛い、と控え目な抗議が聞こえたが、その言葉が本心から出たものでないことをペンギンは知っているので、気付かないふりをして暫しそのまま動きを止める。
ふいと足を上げれば、そこには薄闇にも泥まない紅く小さな痕だけが残されて、引き締まった痩身に所有印の如く焼き付いたそれがペンギンを愉快にさせた。
跪く金糸がすいと青い炎を零す。
指先が輪郭を沿って内腿を撫ぜ、濡れた唇がそこへ吸い付くのを感じて少し息を詰めると、試す様な色を湛える浅葱の目が見えた。
肌を舌が這う曖昧な刺激と温い息遣いに少し顔を顰めると、浅葱はますますその色を深くする。
細く開いた窓から吹き込む夜風が、羽織っただけのシャツをぱさりと床に落とした。
外れた金具が堅い床に砕けた音を響かせる横で、絡みついた革紐の感触が酷く不愉快で。
舌打ちが響いた。
2012.05.07.