snowy, snowy
手をつないで歩くなど、ひどく非効率的な行動なのに。
雪舞う紺碧の空の下、行き交う幸せそうな男女達とすれ違う度、ペンギンはふむと頭を悩ませる。
ただでさえ人間には腕が二本しかついていないのだ。
誰かと手を繋いだその瞬間から、貴重な片方はまるで使えなくなってしまうではないか。
遊戯の際子どもが両隣の子どもと手を繋ぐのは、手を繋ぐことそのものがある意味目的の状況下にあるので、効率性という観点でその行動を評価するのは些か無意味だと考えられる。
されども今ペンギンが置かれているのは、大勢の人で混雑する繁華街。
ほらまた、ひとつ吹いた強い風に飛ばされそうになったストールを、女性は鞄を持った不自由な手で慌てて留めようとする。
繋いだ手を離せば元通り綺麗にストールを整えることも容易だろうに、隣の男性と絡めあった指を女性は解こうとしない。
直しにくそうに奮闘する女性に漸く気付いた男性が、すこし苦笑しながら繋がれた方とは反対の手を女性の方に伸ばした。
けれどその手に掛けられた紙袋は男性の動きから俊敏と効率を奪い、結果速度を落とした二人の歩みに後ろを歩いていた男性が小さく舌打ちをしたのが見えた。
(……非効率だ)
理にかなわないこと、効率を排した無駄を何より煩わしく思うペンギンに、そうした光景はひどく理解し難いものだった。
誰かから温もりを分け与えられなければならないほどに、その手は冷えているのだろうか。
指先が冷たいのなら手袋を嵌めれば良いし、何なら無造作にポケットへ両手を突っ込むのでも良い。問題は酷く容易く解決され得ることだろう。
指を絡めていなければ、この人ごみの中、相手と逸れてしまうとでも言うのだろうか。
幼子でもあるまい、好いた相手の背一つも見つける自信がないのなら、それは恋人同士と言わないだろう。
「ごめん、講評が長引いて」
ぽん、と肩に置かれた手を振り返ると、申し訳なさそうな顔をしたキラーが息を切らせて立っていた。
「何処かカフェにでも入っていてくれれば良かったのに」
「問題ない。寒いのは好きだ」
「頼むから風邪とか引かないでくれよ」
無情に進む時計の針を恨めしげに見ながら急いで来たのだろう。
コートの前も開け放してマフラーも取り敢えずひっかけただけと言った体のキラーは酷く寒そうに見えた。
す、と手袋の嵌められていない手を取ると、冬の空気に赤くなった長い指は氷の様に冷えていて、容赦なく高くはないペンギンの体温を奪う。
無造作に握り閉めた指と手の平の間、少しずつ無くなってゆく温度差に、微かな充足感が胸に満ちるのを感じた。
「お前の手まで冷えてしまうぞ」
心配そうに眉根を寄せたキラーの顔を見上げて、ペンギンはふと微笑んだ。
「そうでもないさ」
2013.12.24.